紙と歴史のよもやま話-12「古き良き時代の映画の話」

十戒が刻まれた石版を持つモーゼ
十戒が刻まれた石版を持つモーゼ

 ここからは年配の方には懐かしい映画「十戒」のお話です。主演はチャールトン・ヘストン、監督はセシル・B・デミル。旧約聖書の『出エジプト記』に書かれている物語を映画化したものです。三千三百年ほど前の事。モーゼは神の導きによって奴隷として使われていたヘブライの人々数万人(!?)をエジプトから脱出させます。砂漠と荒野をさまよい遂に海に差しかかりました。後ろを見るとラムセス2世の軍隊が追って来ます。もうだめだと泣き叫ぶ人々の前でモーゼは神に祈りを捧げます。するとどうでしょう、たちまち風が吹き海の水を吹き飛ばして道を作ってしまったではありませんか。人々は我先に前へと進みます。そして最後の一人が対岸にたどり着いたとき、風が止み海が戻って来ました。ラムセスの軍勢はあと少しのところで悉く海に飲まれてしまいました。こうして最大のピンチを切り抜けたモーゼはやがてシナイ山の麓にたどり着きます。そこでモーゼは神の声を聴くために山に登りました。

十戒を石板に刻む

 モーゼが四十日間山に籠り祈りを捧げていると神が語りかけて来ました。「汝殺すなかれ、汝姦淫(かんいん)するなかれ、汝盗むなかれ・・・」そしてその言葉を炎で岩に刻み付け2枚の石のプレートにしてモーゼに与えます。これがモーゼの「十戒」です。こうしてヘブライの人々が安住の地としてたどり着いたのが今のイスラエルの付近です。
 次にご紹介するのは映画「ベン・ハー」です。これも大ヒットした作品でアカデミー賞を11部門で受賞しました。主演は同じくチャールトン・ヘストン、監督はウイリアム・ワイラー。
ユダヤ人のベン・ハーはローマの軍司令官のメッサラに激しい恨みを持っていましたが、復讐のチャンスが訪れました。戦車の競争に出場することになったのです。アラブの大金持ちのイリデリウムが彼を応援します。彼の馬がベン・ハーの乗る戦車を引くからです。イリデリウムは優勝を確信し箱にたっぷり金貨を詰めてメッサラのもとに向い賭けを申し込みます。

粘土板の契約書

 「不敗を誇るローマの軍司令官、どうです賭けをしませんか」と金貨の詰まった箱を見せながら掛率の交渉が始まります。決まった掛け率は四対一。そして掛金の話になると周りから十とか百とかの声が上がります。するとイリデリウムは不機嫌そうに席を立ち「小さい、小さい。見損ないましたぞ軍司令官、ローマもたいしたことないですな」と言って帰ろうとします。プライドを傷つけられたメッサラは遂に千タラントの莫大な賭けを受ける事にしました。
 この時イリデリウムが何やらメモのようなものを書きます。書いているのは粘土板のようです。それをメッサラに渡しました。読んだメッサラは指輪を押し当てサインとします。これにて契約成立。メッサラが負けた場合に支払う額は現代のお金でざっと二千億円。結果はご推察の通りベン・ハーの勝利。宿敵メッサラは戦車から落ち死んでしまいます。
 この話は二千年前の話(映画)ですが、実際に粘土板(蝋板も)はローマでは広く使われていました。粘土板(蠟板)は木枠に入っており二つ折りの形となっていて、後世の書籍=上製本の表紙の原型になったと考えられています。
 他愛もなく映画の話をしましたが昔の人は岩、葉、木、粘土、蝋、布、革、そしてパピルス、パーチメント、様々なものに字を書いて来たことが分かります。比較してみると紙は他のどの材料よりも便利で優れた書写材ということが言えるでしょう。
 東洋において紙は書くためにだけ利用されたのではありません。特に日本においては障子や襖など建築材、包装材として幅広く利用されて来ました。水引のような芸術的なものが作られたり、懐紙として持ち歩いたり鼻紙としても使われるなど実に多彩な使われ方をしています。